2009年5月9日土曜日

ビバーク考(4):凍死について

凍死について

気温の低さで死ぬのではなく、自律による体温維持が不可能なため結果的に死ぬ点に注目すること。条件さえそろえば夏の夜でも凍死する。(疲労凍死)

右は、11月の山中でビバーク中に凍り始めたザック。カバーに霜が発達してきている。


基本的な考え方

生産熱量≧損失熱量を保てば死なない。

生産熱量

体温を維持するため自律神経が制御している人体の発熱量。体内温度を37度に維持している。筋肉や内臓が生産する熱量は、食事に含まれるカロリーから作りだされる。したがって食べて・蓄えてきたカロリー以上に熱は生産できない。

短期間の登山で、脂肪および蛋白質の欠乏はないため、基本的に糖類(炭水化物)があれば生産熱量は維持できる。しかしながら可能な限り、糖質、タンパク質、脂質をバランスよく、かつ十分量を摂ることが望ましい。

  • 凍死しないためのその1. しっかり食事をとる。

昼の行動で、グリコーゲン(これは糖質が原料)を大量に消耗していると、体内の糖質が欠乏し熱生産に影響する。

損失熱量

損失熱量は環境に依存する。おもに放射、対流、伝導、蒸発によって熱が体外に奪われる。

放射は、熱が赤外線などの電磁波となって放出される現象。サバイバルシートや銀マットなど赤外線を反射する物体で体を囲うとよいが、この手の装備は透湿性がないため、条件によっては蒸れたり結露で濡れたりする点に注意。室内安静時24度付近では、体表からの放射熱は60~80kcal/h程度。

対流は、風や流水によって熱を奪われる現象。着れるものは全部着て、風に当たらないところに逃げ込むことが重要。流水に触れるのは論外。恐ろしい速度で熱を奪われる。したがって雨に当たってはならない。

伝導は、温度の高いところから低いところへ熱が移動し平衡する現象。地面は人体と比較すると無限に近い熱容量を持っているため、地面に触れていると熱を奪われる。地面に対しての断熱を考えることが必要。マットやザックをお尻や背中にひくなどして、地面に対する熱抵抗の増大をはかること。

蒸発は、体表面から水分が気化する際に熱を奪われる現象。人間の体からは常に蒸気がでているため、防ぎようがない。ただし体表面が濡れている状態(雨に当たってずぶ濡れなど)は、水分の蒸発に体温を使ってしまうため、避けること。乾いた服に着替えることが重要。

  • 凍死しないためのその2. 生産熱量を失わない努力をする。「濡れ厳禁」「着こむ」「冷たいものに触れない」

服を濡らしてしまった時点で、行動は失敗と判定すること。

生産熱量と損失熱量の判断基準

シバリング(震え)の発生を基準とする。シバリングは体温の低下に対抗するため、自律神経が筋肉を動かす(つまり震える)ことにより熱を生産する生理現象。体内温度が0.5度程度低下すると発生し始める。

シバリングの発生は、生産熱量より損失熱量が大きく体温を維持できる限界を超えていることを意味している。(生産熱量<損失熱量)。継続的なシバリングは、約2時間が限界。それを超えるとシバリングは消失し、骨格筋の運動による体温上昇はなくなり、熱生産量が減少。やがて体温の維持が困難になる。低体温症で済むか、死に至るかは状況による。

シバリング消失の頃には低体温が進行し正常な判断能力を失う。したがって、シバリングを感知したら、ただちに対策を行うこと。防寒の状態が考えうる最高の状態である場合は、ストーブによって暖を取らなければならない。その際、ツェルトなどで外気と遮断されていると空気が暖まりやすく暖を取りやすい。

  • 凍死しないためのその3.震えに耐えて我慢はダメ。シバリングで体温を維持できる限界は2時間。その間に対策すること。火が使えるなら、ただちに暖をとれ。

寒いからと言って火をつけたまま寝ない。火事・窒息の危険がある。水の量が十分である場合は、湯を沸かし、少しのみ、残りはペットボトルなどに入れて湯たんぽにするとよい。

疲労凍死について

ビバークのセオリーを守り、疲れる前に休むこと。雨や雪の中、ちょっと我慢して行動すれば人里や山小屋に着く、という状況に注意。想定外の事象や1ミスで疲労から行動不能に陥る。そして体温維持困難から凍死へとつながる。「我慢して行動」という時点で、計画、装備、行動のいずれかに既にミスがある。

ツェルトを被ってお茶を飲んで休憩しつつ、仕切り直しの方法を考える。事故さえ起こさなければ、水・食糧・防寒が揃っていれば死なない。