2009年9月27日日曜日

冬山考(1):体感温度と凍傷

冬季、気温が零下を下回るようになると凍傷を負う可能性が出てくる。ここでは凍傷の基礎知識を述べる。

凍傷とは

低温な環境にさらされると、人間は、皮下の血管が収縮させ、血液による体表への熱移動を減少させて中枢体温を維持する。中枢は守られる一方で、血流量が減った体表の温度は維持が困難になる。そのため、低温に長時間暴露され、極端に体表面温度が低下すると凍結が始まる。この凍結個所が凍傷となる。

軽度の凍傷は治癒可能だが、重度の凍傷は非可逆的破壊であり、凍傷個所は切断する必要が出てくる。

体感温度と凍傷

体感温度と凍傷の発生はよく相関する。したがって、環境の体感温度を正しく把握することが凍傷防止の第一歩となる。

wind-chill

体感温度は、外気温および風速から導かれる。上のグラフは、乾燥時の体感温度を示している。 なおこの体感温度の算出はWCT indexに基づく。

体感温度と凍傷の危険性は下の表で示す関係にある。また、体感温度が同じ場合は風速が速いほど凍傷の危険性が高まる。

体感温度凍傷の危険性対応
0~ -9極低防寒着を着用。寒さを感じなければ停止して短い休息をとってよい。停止した場合は、低体温症注意。
-10~ -27重ね着など工夫。可能な限り停止せずゆっくり運動を続ける。
-28~ -39中(10-30分程度で受傷)バラクラバなど着用。皮膚の暴露禁止。
停止せずゆっくり運動を続ける。定期的に凍傷になっていないか確認。
-40~ -47高(5-10分程度で受傷)皮膚の暴露禁止。重ね着など駆使しより高いレベルで防寒。停止せずゆっくり運動を続ける。頻繁に凍傷になっていないか確認。可能な限り風を避ける。
-48~ -54極高(2-5分程度で受傷)最高レベルの防寒。停止せず運動を続ける。すみやかに暖かい屋内への退避。
-55~論外(2分以内に受傷)屋外で活動してはならない。この事態に突入しないようあらかじめ天気に気を配り全力で回避する。

行動方針

山行中の行動の目安となるよう、体感温度と凍傷の危険、および強風の危険を一つにまとめたものが下の図となる。

wild-chill_action

山岳地帯の風速は地表よりも早いことが多いため、ふもとの天気の風速よりやや大きめに見積もること。稜線に出る場合はより悲観的に見積もる。

まとめ

  • 予想される最低気温および風速から体感温度を予測する
  • 体感温度より、防寒具の選択と行動に反映させる

2009年9月26日土曜日

山でご飯(2):基本事項

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山でご飯を摂るにあたって基本的な事柄を記述する。

右は、縦走中、山小屋そばのベンチで作ったフリーズドライの雑炊とインスタントコンソメスープ。

スキットルの中身はバーボン。

 

山ご飯の基本

以下の事柄を踏まえて計画すること

  • エネルギー補給としてのご飯 : 行動不能に陥らないためにご飯の栄養価を評価する。長期縦走でなければ基本的に炭水化物とカロリーだけに注目してもいい。
  • ご飯作成にかかる資源 : ご飯を作るにあたって、消耗品を考える。燃料・食材を考える。
  • 後始末:食事後の後始末、および次回のご飯作成への影響を考える。
  • その他の事柄:山でご飯のテーマとか。

エネルギー補給としてのご飯

消費カロリーと摂取カロリーのバランスを考えて、十分なカロリー補給ができること。ご飯の楽しみとカロリー摂取の重要度のバランスをとることが重要。ぶっちゃけると、短期間なら行動食のお菓子だけ食べてても死にはしないので、「山でご飯」にどれだけの価値を見いだせるかによる。

カロリー消費計算概要

装備を背負って山中を1時間行動で500kcal消費が目安。運動強度が高いとグリコーゲン(炭水化物)が多量に消費されるため、無理な行動さけて終始息が上がらない楽な運動強度を保つこと。体に備蓄した脂肪を多く使って行動するのがコツ。運動強度を上げすぎないよう上手に行動すれば消費500kcalのうちグリコーゲンの消耗は250kcal程度になるため、行動時間×250kcal分のカロリーを炭水化物で摂取すればOK。体重や装備の重さを考慮して多少色を付けるのもあり。また、短期の山行であれば多少欠乏気味でも問題ない。

運動強度管理は、主観的運動強度で十分だが、よくわからない、もしくは本格的に管理を行うなら心拍計を使ってもいい。心拍計と主観運動強度の相関がつかめれば、以後心拍計は不要になる。

  • カロリー計算:朝ご飯と晩御飯の合計で250kcal×行動時間をおもに炭水化物で摂る

なお一日のトータル摂取カロリーとしては、基礎代謝量で1500kcal程度あるので、それを考慮して食事を摂ること。昼の行動食で底上げする分で賄なうといい。

ご飯に作成にかかる資源

食材はなるべく軽く、高カロリーが望ましい。また日持ちしないものから消費すること。嗜好を優先するか、重さを優先するか、バランスをとることが重要。

燃料は、一回の調理に必要な消費量を把握していることが重要。部屋で試作する際に燃料消費量をチェックしておくこと、山では気温・気圧の低さ、何より風の影響で燃料消費は1~2倍程度ばらつくことに注意。

ご飯毎に厳密に燃料消費を把握できない場合は、自分の山行時について過去実績を把握しておくとよい。自分の場合は、1食あたりガス50g、ガソリン0.1l程度で算出している。安全係数として1.5掛けで持っていくことが多い。

アルコールストーブは風など環境の影響が大きすぎて正確に見積もることが困難。ストームクッカーなど使用している場合は、環境変化に強くなるのである程度の目安が立てられると思う。

  • 燃料消費:一食あたりガス50g、ガソリン0.1l。安全係数として1.5倍した量を持って行く

後始末

食事後の後始末は2つに大別できる。1つは、ゴミの処理、2つ目は汚れたクッカーの始末。

ゴミの処理

そもそも論としてなるべくゴミが出ないようにパッキングと食材を選ぶこと。山で捨てるという選択肢は絶対にない。ゴミは持って帰ること。したがって食べきれない量を作ってはならない。ゴミは、燃えるごみ、燃えないゴミに分けてビニール袋に分別しておくといい。

  • ゴミ処理:まずゴミを出さないことに注力。出てしまったゴミは燃えるごみ、燃えないゴミに分けてパッキングして持ち帰る。山に捨てないこと。

汚れたクッカーの始末

軽度の汚れは、水汚れと油汚れに大別できる。水汚れはお茶やスープを作って汚れを薄めた後、飲んでしまう。油汚れは簡単にふき取っておくだけで、汚れたままにしていい。次回もそのクッカーは油もの担当にする。油もの担当から外したくなったら、そのクッカーでパスタ類を茹でればOK。パスタの煮汁に界面活性作用があるため油汚れが浮き、簡単に掃除できる。なお煮汁はスープにして飲んでしまえばOK。

重度の汚れは、概ね焦げ付きくらい。不覚にも焦げ着きを作ってしまった場合は、二択となる。高山の場合や国立公園など外界からの異物持ち込み厳禁の場合は諦める。汁物作って箸やスプーンで気長につついて落とすしかない。低山で極小の汚れの排出が問題にならない場合は、沢で水と砂をつかって削り落す。汚れは沢から離れた場所に捨てること。無理に落とさず諦めるというのも手。

  • クッカーの掃除:多少の汚れは気にしないのが基本。水溶性の汚れは汁物で薄めて飲み、油溶性ならパスタの出番。焦げ付きは出さないこと。それでもやっちまった場合は、諦めるか、砂をクレンザーにして落とす。

その他の事柄

攻めの冒険でもない限り、食事に効率を求めないほうがいい。あくまで自分が楽しく食べられるものを追い求める方が山が楽しくなる。

山でご飯のテーマ

山頂で月見しながら日本酒のみ、旨い鍋焼きうどんを食うぞ! とか、第三者には意味不明のこだわりのこと。不思議とこの手のこだわりは、類が友を呼ぶ。

自給自足?

山で採って食う技。とは言え、国立公園で摂って食うのは法律で禁止されてる。一方、普通の川や山は誰かのモノなので、これまた勝手に摂って食うのは泥棒。やるなら漁業権とかちゃんと調べて、合法的に摂って食うこと。

まあ普通の山行は自給自足を前提に食糧計画を立てたりしないので、これが必要になるようなことはない。