2009年5月17日日曜日

ビバーク考(5):たき火

たき火について


ビバークにおいて、たき火は必須ではない。ほとんどの場合、手持ちのストーブで事足りる。

不時露営(フォーストビバーク)を強いられるケースで、たき火が必要になる。たき火はコントロールが難しく、ぶっつけ本番で試みるとたいてい失敗する。

右は、安定した熾火の状態。

焚き火の3原則+1

一言で言えば、薪・空気・熱をコントロールすること。またビバーク特有の注意が1点ある。

ビバーク特有の注意

焚き火の場所に注意。可燃物の近く(落ち葉の溜まり場・倒木の陰など)はNG。また火の粉で装備に穴が開くのでツェルトの側も避ける

手早く集めるには、3-5m程度の大きな枝を数本拾い集める。薪に適した長さの枝を選んで拾っていたら日が暮れてしまう。段差に立てかけてキックすれば折れる程度の太さの大枝を選んで引きずってくること。

空気

炎が燃えるために必要なもの。薪の組み方に依存する。失敗しにくい簡単な方法は以下のとおり。

  • 浅い穴を掘る

  • 拾ってきた大枝から細い枝を毟り取って穴に敷き詰める

  • もっとも太い薪を2本から3本程度並行に並べる

  • 間に枯葉や細い枝を盛る

  • その上に適当な太さの枝を適当にくみ上げる

焚き火の肝。焚き火が立ち消えするのは、酸欠もしくは燃焼を維持できるだけの熱量がなくなってしまうことによる。よほど密に薪を押し固めないと通常は酸欠は発生しないため、焚き火の立ち消え原因はほとんどは、燃焼が継続できる熱量を維持できないことによる。

熱量の維持は以下の点に注意する。

  • 灰を使い地面と焚き火の間を断熱する。浅い穴に小枝を敷き詰め早い段階で灰にして火床を作成する

  • 太い薪が加熱され、可燃性のウッドガスが噴出している状態(炎が激しく出ている状態)は不安定。冷えてガスの噴出がとまると数秒で消える。太めの枝は2本以上同時に燃えるように維持し、燃焼面を対面に配置し互いの熱で炙りあうように維持すること

  • 太い薪の燃焼面が炭化し熾火が灰に溜まり出したら、焚き火は安定期。熾き火を囲むように枝を端から徐々に投入していけば、わずかな薪で長時間小さい炎が維持できる。


焚き火装備

遭難のニュースを見ると、たまに道迷いの遭難者が焚き付けがうまくいかず、地図を燃やしたりしている。道に迷っている最中に地図を燃やすなんて正気の沙汰ではないのだが、暖をとるために焚き火を熾したいが、焚き付けがうまくいかず、適当な可燃物が無く地図を仕方なく燃やすという状況は想像に難くない。

そういった事態にならないよう、普段から火を熾し暖を取れる装備とスキルを用意しておくこと。

  • マッチ:濡れによわく炊き付けしにくいため通常不要
  • ライター:主力品。ガスがなくなるとつかなくなる点に注意
  • ストーブ:自動着火装置がついているなら火熾しに使える。が、コレがあるときは燃料さえ心配なければ焚き火は必要ない。
  • メタルマッチ:マグネシウムの塊。濡れていても火を熾せるため非常用装備として常に携帯。ティッシュペーパなどの燃えやすいものが無いと火を熾すのが難しい。着火を練習しておかないと、いざという時まったく使い物にならない。
  • ガムテープ:着火剤として流用できる。火熾し以外にも破れなどの補修にも使えるため優秀な装備
  • メタ:固形燃料。土砂降りでなければ雨の中でさえ燃える。タブレットを2、3本携帯するだけで火熾しの失敗はほぼ皆無になる。
  • ガソリン:爆発的に燃える。コントロール不能になるため通常使用禁止
  • アルコール:着火が非常に簡単。ただしアルコールの炎は昼間は透明で見えないため取り扱いが難しい。

法律上の問題

焚き火に関する法律は、以下のとおり。

自然公園法

国立公園・国定公園の特別保護地区では焚き火は禁止されている。特別保護地区は、地方環境事務所のwebサイトから目的の地域のページを開き「管内の国立公園」のリンクから目的の地域の地図をダウンロードして調べること。また、生命の危機に瀕するなどして、やむを得ず焚き火をした場合は、届け出が必要。

消防法・廃棄物処理法

火災を起こさない・ごみを燃やさないことに注意すればいい。イベントなどで、あらかじめ焚き火が必要なことがわかっている場合は、消防にあらかじめ断りを入れておく。最も重要なことは必要も無いのに焚き火をしないこと

心得

  • 焚き火可の場所でやる。焚き火可かどうかわからない場合は、自分の命が危険かどうかで判断する。
  • 小さい炎を長時間もやせる人ほどエライ
  • 土をかけるだけですぐ消せて、跡形も残さないのが理想

自分は逃亡者で、追跡者の目から逃れて火を焚いているとイメージしてやる。究極的には焚き火を必要としない装備をもっているのが理想。しかし、装備が無ければ死んでしまうようではだめ。焚き火に関する知識やスキルを身につけておくことが必要

2009年5月9日土曜日

ビバーク考(4):凍死について

凍死について

気温の低さで死ぬのではなく、自律による体温維持が不可能なため結果的に死ぬ点に注目すること。条件さえそろえば夏の夜でも凍死する。(疲労凍死)

右は、11月の山中でビバーク中に凍り始めたザック。カバーに霜が発達してきている。


基本的な考え方

生産熱量≧損失熱量を保てば死なない。

生産熱量

体温を維持するため自律神経が制御している人体の発熱量。体内温度を37度に維持している。筋肉や内臓が生産する熱量は、食事に含まれるカロリーから作りだされる。したがって食べて・蓄えてきたカロリー以上に熱は生産できない。

短期間の登山で、脂肪および蛋白質の欠乏はないため、基本的に糖類(炭水化物)があれば生産熱量は維持できる。しかしながら可能な限り、糖質、タンパク質、脂質をバランスよく、かつ十分量を摂ることが望ましい。

  • 凍死しないためのその1. しっかり食事をとる。

昼の行動で、グリコーゲン(これは糖質が原料)を大量に消耗していると、体内の糖質が欠乏し熱生産に影響する。

損失熱量

損失熱量は環境に依存する。おもに放射、対流、伝導、蒸発によって熱が体外に奪われる。

放射は、熱が赤外線などの電磁波となって放出される現象。サバイバルシートや銀マットなど赤外線を反射する物体で体を囲うとよいが、この手の装備は透湿性がないため、条件によっては蒸れたり結露で濡れたりする点に注意。室内安静時24度付近では、体表からの放射熱は60~80kcal/h程度。

対流は、風や流水によって熱を奪われる現象。着れるものは全部着て、風に当たらないところに逃げ込むことが重要。流水に触れるのは論外。恐ろしい速度で熱を奪われる。したがって雨に当たってはならない。

伝導は、温度の高いところから低いところへ熱が移動し平衡する現象。地面は人体と比較すると無限に近い熱容量を持っているため、地面に触れていると熱を奪われる。地面に対しての断熱を考えることが必要。マットやザックをお尻や背中にひくなどして、地面に対する熱抵抗の増大をはかること。

蒸発は、体表面から水分が気化する際に熱を奪われる現象。人間の体からは常に蒸気がでているため、防ぎようがない。ただし体表面が濡れている状態(雨に当たってずぶ濡れなど)は、水分の蒸発に体温を使ってしまうため、避けること。乾いた服に着替えることが重要。

  • 凍死しないためのその2. 生産熱量を失わない努力をする。「濡れ厳禁」「着こむ」「冷たいものに触れない」

服を濡らしてしまった時点で、行動は失敗と判定すること。

生産熱量と損失熱量の判断基準

シバリング(震え)の発生を基準とする。シバリングは体温の低下に対抗するため、自律神経が筋肉を動かす(つまり震える)ことにより熱を生産する生理現象。体内温度が0.5度程度低下すると発生し始める。

シバリングの発生は、生産熱量より損失熱量が大きく体温を維持できる限界を超えていることを意味している。(生産熱量<損失熱量)。継続的なシバリングは、約2時間が限界。それを超えるとシバリングは消失し、骨格筋の運動による体温上昇はなくなり、熱生産量が減少。やがて体温の維持が困難になる。低体温症で済むか、死に至るかは状況による。

シバリング消失の頃には低体温が進行し正常な判断能力を失う。したがって、シバリングを感知したら、ただちに対策を行うこと。防寒の状態が考えうる最高の状態である場合は、ストーブによって暖を取らなければならない。その際、ツェルトなどで外気と遮断されていると空気が暖まりやすく暖を取りやすい。

  • 凍死しないためのその3.震えに耐えて我慢はダメ。シバリングで体温を維持できる限界は2時間。その間に対策すること。火が使えるなら、ただちに暖をとれ。

寒いからと言って火をつけたまま寝ない。火事・窒息の危険がある。水の量が十分である場合は、湯を沸かし、少しのみ、残りはペットボトルなどに入れて湯たんぽにするとよい。

疲労凍死について

ビバークのセオリーを守り、疲れる前に休むこと。雨や雪の中、ちょっと我慢して行動すれば人里や山小屋に着く、という状況に注意。想定外の事象や1ミスで疲労から行動不能に陥る。そして体温維持困難から凍死へとつながる。「我慢して行動」という時点で、計画、装備、行動のいずれかに既にミスがある。

ツェルトを被ってお茶を飲んで休憩しつつ、仕切り直しの方法を考える。事故さえ起こさなければ、水・食糧・防寒が揃っていれば死なない。

2009年5月7日木曜日

ビバーク考(3):ツェルト


ツェルトについて

登山するなら、たとえ日帰りでも持つべき装備がツェルト。

右の写真は、ストック、細引き、石で立てたFinetrackのツェルトI。この時は、雨を警戒してナイロンシートをグランドシートとして使っている。

ストックを使ったツェルトの建て方はここを参照。

所持ツェルト

所持しているツェルトは2つ。

  • mont-bell ULツェルト
    最初に購入したツェルト。登山を始める前MTBで森をさまようのにお守りとして購入。自転車用としては、一度だけ使用。のちに登山を始めてから、積極的に使用しはじめた。現在のサブ装備。
  • finetrack ツェルトI
    2番目に購入したツェルト。ULツェルトの結露に堪えかねて購入。軽さと透湿性を期待して選んだ。現在のメイン装備。

ツェルトとはどんな装備か

底割れのフレームなしテント。通常シングルウォール。軽く携帯性に優れるが、ダブルウォールの山岳テントに比べ、浸水しやすい、結露しやすい、風に弱いなど多くの欠点をもつ。

非常用装備としてザックの底に忍ばせておくように、というアドバイスを単純に受けとめないように。ツェルトは経験がモノをいう装備なので、非常時になってから、初めて取り出したのでは使いこなせない。

ツェルトのパッキング

だれに習ったわけでもないため、著しく我流である点に注意。

  1. ザックのてっぺんに装備すること
    ツェルトはザックの底にしまうと、山行中に取り出されることはなくなる。ツェルトはザックの底ではなく、天辺の雨蓋に入れるべき。

  2. スタッフバックから出して、大きめのビニール袋に入れること
    スタッフバックに入れていると、さっと取り出しさっと仕舞う事が出来ない。ビニール袋やごみ袋に詰めて雨蓋に押し込め。

上記1.2.の理由は、単純で、寒冷地での休憩や突然の雨にツェルトを積極的に使うため。チェックポイントは以下の通り。

  • 手袋をしたままでツェルトを取り出し、かぶり、また収納できるか?
  • 雨が降り出した。ツェルトを取り出し、かぶるまで10秒以下で対応できるか?
  • 泥がついていたり、雨でぬれたツェルトを収納して、他の装備に影響はでないか?

ツェルトで寝床を作る

寝床としてツェルトを使うには、童心に返るのがコツ。子供の頃、秘密基地を作って遊んだことを思い出しながら、ツェルトは秘密基地の材料と考えてみるとよい。如何に快適に中で過ごすかを地形に合わせて工夫する。

ポイントは以下の通り。

  • 風や雨が吹き込まないように立地や建て方を考える
  • 窪地や崖下、沢沿いはNG。増水、落石で死ねる
  • 細引きは10mを2本位持っていれば、たいていの場所で三角形に張れる
  • ペグはいらない。落ちてる枝や石でペグダウンの代わりにできる
  • ストックでのツェルト自立は、テクニックが必要。慣れれば無風時なら簡単に建てられる

ビバーク装備としてのツェルト

  • ツェルトは消耗品と考えて大胆に使う。自分の命を大事に
  • たとえ透湿性があっても、結露は避けられないと考えて使う
  • 内部での火器使用は可能な限り避ける(風で煽られたツェルトに引火しかねない)
  • 強風時は無理に自立を試みない。ツェルトは絶対に風で吹き飛ばされてはならない

ツェルトに対する個人的感想

いろんなメーカから様々なツェルトが出ているが、ツェルトを使って野で遊ぶならfinetrackのツェルトIをがいい。透湿性を持っているため結露が少なく、軽く、ベンチレータがつぶれにくいため窒息を恐れなくていい、さらにモスキートネットも装備しているため虫の侵入も多少はマシ、と至れり尽くせり。

mont-bellのULツェルトは軽いが結露が半端じゃない。朝、外は晴れてるのにツェルトの中は雨といった風情になりうる。ゴアツェルトは高い&重すぎるため論外。あれを持つくらいなら超軽量のダブルウォールテントを担いだ方がマシ。

非常用でいいや、というのであればどこのメーカのツェルトを選んでもいい。ただし、非常時になる前に予行演習としてビバークにチャレンジしておくべき。

以下、ツェルトを選ぶときのチェックポイント

  • 底が割れてる、かつ底を閉じられる
  • 軽い
  • 濡れた時ベンチレータが潰れない(かなり重要!)
  • モスキートネットは趣味。モスキートネット無しのモデルを買うならベンチレータから顔が出せること

2009年5月4日月曜日

ビバーク考(2):結露について

夜間に結露したツェルト内部。気温不明。外は霧雨

結露について

夜間、山にいると常に付きまとう問題が結露の発生。忘れてはならないことは、たとえ透湿性をもつ素材でも条件しだいで容易に結露するという点だ。

右は、finetrackの透湿性を持つツェルトに発生した結露。

結露考

結露は、温かい蒸気が冷やされ凝結することにより発生する。したがって結露を減らすためには、

  • 水蒸気量を減らす
  • 温度差をなくす

の2点に絞られる。

  1. 水蒸気量を減らす
    煮炊きを避ける。暑すぎる装備で寝ない。ただし、人間の体から発散される不感蒸泄は抑えられない。換気によって水蒸気を外部に排出することで水蒸気量を減らせる。
  2. 温度差をなくす
    積極的な換気を行う。

ツェルト内部など結露発生部位で換気を頻繁に行う事により、結露はかなり防止できる。しかしながら、換気は次の点で良い解決策とは言えない。

  1. ツェルトなどシェルター内の熱を逃がす
    盛夏を除き熱は逃がさないほうがよい
  2. 衣服やシュラフの内部結露の発生
    ダウンシュラフを湿らせたり、最悪濡らしてしまう。

ツェルト内部の気温を下げすぎると、上記2.の内部結露が発生する点に注意。シュラフ表面と内部に急な温度勾配が発生すると、体から出た蒸気はダウン表面やシュラフカバー内側に結露する。



これはツェルトなしでシュラフカバーのみでビバークした場合も該当する。 ゴアテックスなどの高性能透湿素材でも同様に結露する。ゴアテックスが透過するのは水蒸気のみであり、シュラフ表面に近いダウンの温度が下がってカバー内で結露した場合は、ゴアテックスメンブレンの透湿性は真価を発揮できない。

結露のコントロール

2通りある。

  1. 湿度のたまる層をなくす方法夏山で気温が十分高く、降雨の心配がない場合は換気を十分にするとともに、湿度を逃がしにくいシュラフカバーの使用をやめる。
  2. 結露場所をあらかじめ設定し、濡らしてはならない装備を守る方法シュラフカバーの外側に結露させる層を作成する。

経験的に1は判断が難しく、2の方法の方が簡単だが、暑くて寝苦しい思いをする場合もあり、結局温度調節がいる。

たいていのビバークでは上記2をメインにし、暑ければ上半身をシュラフから出して寝ている。

失敗談

1500m近辺、8月にマット、ダウンシュラフ、ゴアテックスシュラフカバーのみでビバーク。満天の星空に流星がながれていて、うるさい羽虫を除けば最高の夜だった。

入眠も適温で極めて快適だったが、翌朝は寒くて起床。ダウンシュラフの背中から側面にかけて結露でビショビショに濡れてロフトが消失していた。原因は以下の3点が考えらた。

  1. シュラフカバーは、換気が悪く、透湿能力を超えると蒸気が溜まってしまう
  2. シュラフ表面の温度が下がりすぎてカバー内部で結露した
  3. 結露個所は、ゴアテックスの透湿性が失われるため、一旦、カバー内側で結露が発生するとカバー内部の湿度は上昇しやすくなり、さらに結露を生むという悪循環に陥った

この場合は、カバー無しで寝る方が良かったと思う。

2009年5月2日土曜日

ビバーク考(1):ビバーク判断について


体力の温存

無理な行動はしない。体力の消耗は急速だが、回復は遅い。疲れれば疲れるほど、回復には時間がかかる。基本は疲れを感じる前に即休む。普段より疲れを感じたら判断ミスがあったとし、原因を解明すること。

必ず余裕がある段階でビバークに入ること。

ビバーク判断基準

日没

あらかじめ夜間移動を想定していないときは、どんなに遅くとも日没2時間前までに移動を停止すること。午後3時には、ビバーク地を探し始める。

時計がない場合、および稜線に囲まれその地点の日没時間がわからない場合は、指の幅で日没までの時間を予測する。両手目いっぱい伸ばした状態で手のひらを太陽に向け、稜線と太陽下部の間に親指を除く8本の指が入ると、およそ日没2時間前となる。(指一本が約15分だと覚えておけばよい)

天候

悪天の場合は無理に行動しない。

体力

疲れを感じたら即休む。