オールウェザーブランケットの使い方
オールウェザーブランケット、もしくはエマージェンシーブランケットは、使い方を正しく理解しなければならない。非常時に効果的に使うためにはどうすればよいか記述する。
右は、愛用のオールウェザーブランケット。使いきりのエマージェンシーブランケットと異なり、繰り返し使用できるが嵩張るのが欠点。
基本的な使い方
服を着れるだけ着る。お尻の下にザックの中身を敷き、座る。空にしたザックは、足を突っ込む。どこかにもたれかかるなら空にしたザックは背負って、背中の断熱に使ってもいい。最後に銀面を自分の側にむけたオールウェザーブランケットにしっかり包まる。
最高の結果を得るためのポイントは以下の通り。
- 地面に対しての断熱を最優先に考える。地面に直接座ってはならないし、寝そべるなどは論外。
- オールウェザーブランケットの銀面は自分側にして使う。
どの程度の効果があるのか?
うたい文句を信じるならば、オールウェザーブランケットは熱放射を80%以上反射させる効果がある。体からの損失熱の80%ではない点に注意すること。(Engineered to reflect and retain over 80% of radiated body heat,...原文の単語に注意!entire body heatではない)
簡単に言えば、体から失われる熱は以下の3つの要素の総和となる。
損失熱=熱放射+熱伝導+熱伝達(対流)
要するにオールウェザーブランケットでは、熱伝導や熱伝達により失われる熱はほとんど防げない。
オールウェザーブランケットを効果的に使うには、熱伝導および熱伝達の要素を最小にすればよい。地面に触れない(熱伝導阻止)、しっかり着こみ風に当たらない(熱伝達阻止)の2点を徹底すること。
オールウェザーブランケットやエマージェンシーブランケットに対して効果を疑問視する人もいる。以下に、オールウェザーブランケットが具体的にどの程度の効果をもつか概算した結果を占めす。
人体モデル
身長172 cm、体重 63kg (およそ標準体型の日本人男性平均値)。体表面積sは s = 0.007184 × 体重^{0.425} × 身長^{0.725}より、1.745196m^2とする。
環境
仮に全裸だったとして体表面の平均体温を34度とし、人体放射率を0.98する。また環境温度は24℃とし放射率0.95と仮定する。
放射熱
シュテファン=ボルツマンの法則から、放射される熱量P=放射率×表面積×シュテファン=ボルツマン定数×絶対温度^4となるため、人体から放射される熱量Pは、0.98×1.745196×5.67E-08×(34+273.15)^4=863.09J/sとなる。同様に環境から放射される熱量P'は0.95×1.745196×5.67E-08×(24+273.15)^4=732.91J/sとなる。
反射は値として小さいのでここでは無視する。P-P'より、概ね130.17J/sの体温が逃げる計算になる。もし生産熱と損失熱が平衡しているならば、1時間当たり112.0kcal/hのカロリーを失っている計算になる。人体比熱はおおよそ0.83であるから、体重63kgのこの人物の体温は、放射熱で約2.14℃/hの勢いで冷めていく計算になる。(生産熱はこれに逆らって体温を維持する)
オールウェザーブランケットの導入
周囲環境にオールウェザーブランケットを導入する。環境温度24℃で放射率0.2、反射率0.8と仮定する。
環境の放射率0.2について同様に計算すると放射熱P''=154.30J/s、さらに今度は反射を無視できないので、人体からの放射熱Pを反射した熱量RはR=人体放射熱量P×反射率= 863.09 × 0.8 = 690.4J/s。よってオールウェザーブランケットからの総放射熱量Prは放射熱P''と反射熱Rの総和になる。したがってPr=844.7J/sとなる。
熱放射により逃げる体温は、P-Prより21.40J/sとなる。つまり18.4kcal/h程度の損失といえる。体温低下に換算すると0.35℃/h程度になる。
まとめ
オールウェザーブランケット有り/無しで見ると、このケースでは一時間当たり93.6kcal/h程の差となる。これは、熱伝達、熱伝導の値が十分に小さければ無視できない量の保温効果だといえる。
逆にいえば、熱伝達や熱伝導による損失が大きい場合はオールウェザーブランケットの効果は相対的に小さくなる。そして、フィールドでは多くの場合、熱伝導や熱伝達による損失の方が大きい。そのため、オールウェザーブランケットやエマージェンシーブランケットは漫然と利用しても効果を感じにくい装備となっている。
ビバークで凍えないためには・・・
OK。ここからは数式のことなんか忘れよう。大事なのは、山で実際に何をすべきか忘れない事だから。下の3つの失わない努力を常に心がけること。
熱伝導によって体温を失わない努力
地面に直接寝てみよう。この場合、あっという間に地面に熱を奪われて凍える。(熱伝導による熱損失)
地面に直接寝るのはダメ。寝るなら断熱用のマットを引いて寝る。これが鉄則。
「フォーストビバークでマットなんか持ってない!」そういう時も地面に対して常に断熱を意識する。たとえば寝ずに座る。接地面積を減らせば熱伝導で奪われる熱量は激減する。
この場合もお尻の下に、着れない荷物は全部敷いて地面に対して断熱。何かにもたれるときはザックを背中に当てて断熱するといい。他にも、枯れ葉や小枝を集めて断熱マットもどきにできる。(夏場は虫にたかられる覚悟がいる・・・)
熱伝達(対流)によって体温を失わない努力
冷たい空気に触れると、空気が暖まりこんな感じに対流する。
この場合、体温は空気に奪われてしまう。空気の流速が早いほど体温を急速に奪われる(対流による熱損失)
この場合、風に当たらないようにし、着られるだけ着る。
着こむときは、露出部分を可能な限り減らすこと。顔面、首、手を露出させない。また肩は体温を逃がしやすい。タオルなどでここをしっかり覆う。ここのサイト中段の図16に注目。衣服の肩の部分の温度が高いことがわかる。衣服が肌にしっかりあたる部分は熱が服に伝わりやすいため、熱を逃がしてしまう。タオルなど掛けて熱を逃がしにくくする工夫をすること。
なお、どこにももたれないときは、空にしたザックに足を突っ込んでおけば、足元はかなり暖かい。
熱放射によって体温を失わない努力
たとえ真空中に放り出されたとしても・・・・
体温は電磁波(輻射熱)となって逃げていく。(熱放射による熱損失)
この場合、アルミシートなど電磁波を反射する素材で囲う。
反射した電磁波が自分に戻ってくるように工夫すること。(ぐるり体を包むなど)
オールウェザーブランケットは地面に敷くとただのレジャーシートと変らない点に注意。熱を反射するわけではなく電磁波を反射するだけなので、反射した電磁波が自分に戻ってくるように配置しなければ無意味となる。
テントウォールを暖めても多少は効果があるかもしれないが、明らかに非効率なので、この場合は敷くより包まるべき。
最後に
ここまで見てきたようにオールウェザーブランケットが十分な効果を発揮するのは、3つの熱損失の要素の内、放射熱による損失だけだ。ビバークで凍えないためには、熱伝導、熱伝達、熱放射、すべてに隙がない対策が重要になる。
最後におまけとして。「オールウェザーブランケットの使い方」というからには、保温以外の使い方も挙げておこう。
日よけ(タープ)
銀面を熱源(太陽やたき火)に向けて裏側に回り込むと涼しい (熱源からの輻射熱をアルミが反射するため)。 グロメットを利用してタープ代わりに使うときは銀面を空に向けて張った方が涼しい。
日向で、「銀面を上にして包まったとき」と「銀面を下にして包まったとき」の温度の違いを実験してみると違いがわかる。
グランドシート
かなり丈夫なのでグランドシート代わりに使える。この場合は電磁波を反射する効果はないので、保温には全く使えない。(時々勘違いしている人がいるが、ただ地面との間に敷くだけで熱を反射するなんてことは、ありえないのでだまされないように)
雪洞掘りに
雪を掘りだして運ぶ時のソリ代わりに。
緊急時の合図に
ヘリに合図する場合に、目立つ銀面が使える・・・ハズ。ヘリに救助を求めるときは、体の上で銀面が目立つよう大きく円を描いて回す。ヘリから気付いて救助に向かってきたら、体の横で上下に振ればOK。