2009年12月21日月曜日

山でご飯(3):アルミ缶ストーブと予行演習

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山でご飯を食べるにあたり、家の中で予行演習を行う。

環境の整った家の中でできないことは屋外、まして山の中では、成功しない。ここでは、スキルアップとしてストーブの自作とそれを使った調理の実習を行う。

右は使用したセット。

自作アルコールストーブ

アルミ缶ストーブもしくはペプシ缶ストーブと呼ばれているものを作製した。目的は、ストーブの基礎を学習し、既存の装備品をより効率的に運用する方法を模索すること。アルミ缶ストーブの主力化による装備の軽量化などは目的としていない。

アルミ缶ストーブを作製するに当たり、以下のサイトを参考にした。

http://zenstoves.net/

リンク先のHow Stoves Workを読めば、ストーブの基礎を学ぶことができる。

燃焼実験

390mlの熱湯を得るために最適化する。なお、湯の量はカップヌードルを作るのに必要な湯の量を基準とした。

湯を効率よく沸かすには、炎の高温部分を利用する。風防およびアルミ反射を利用して熱を逃がさない、などが考えられる。

炎の部位

image 炎の高さとコッフェルの底面に当たる炎の部位により沸騰時間に猛烈な差がでることが確かめられた。 高さ0cmでは10分でも沸騰しないが、高さ5cm程度(炎の高さの8割程度)の位置のとき最も早く沸騰し5分で湯が沸いた。

風防およびアルミによる赤外線反射

アルコールストーブではわずかでも風があると、湯が沸かせなかった。風防により風除けを行うと、なんとか沸かせる。一方アルミを使った赤外線反射は差異が認められない。したがって風防はアルミなど赤外線反射にこだわる必要はない。

まとめ

上記結果より、自作アルコールストーブでは十分な高さの風防とゴトク(炎の高さの8割程度の位置になべ底がくるもの)が必要と確認できた。これはフィールドでのガス調理の経験とよく符合する。

  • 風除けを意識する
  • 適切な高さのゴトクと炎を全面に受けられる広さのなべ底を用意する

調理実習(おやつパスタ編)

実際に何か調理してみることにした。アルコールストーブの不安定な弱い火力でも難しくない、簡単に火が通る早ゆでパスタを使ったおやつを一品作る。

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自作のペプシ缶ゼロのアルコールストーブに60mlの燃料用アルコールを注いで点火。

コッフェルにはたっぷり水を入れてある。6分程度で沸騰し始めた。

 

 

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手で半分に折ったパスタをバラバラと投入して様子見。しっかり沸騰している。

写真を見ればわかるようにこのセットは背が高すぎる。転倒・やけどの危険があるため、屋外で実際にこのセットで調理はあり得ない。

何らかの理由で、この様なセットを使わざるえないときは、転倒事故を防ぐ対策が必要と思われる。

さて、すぐパスタに火が通るので、フォークを使いパスタを湯からあげる。そのままだとパスタがベタベタひっつくので暖かいうちにタップリマヨネーズをかけてかきまぜる。

007 最後に永谷園のお茶漬けのもとを振りかけて、おやつ完成。美味しゅうございました。

アルコールストーブで作ると10分以上かかるが、ガス缶を使えば5分でできる簡単おやつ。マヨネーズは高カロリーなので、お弁当用の小さい15gパック一個で一気に100kcalもとれる。(おもに油でだけど)

食べ物 カロリー 雑感
お茶漬けマヨ パスタ 470kcal 簡単・美味い。マヨ3パックとサラスパ半分で500kcal位。15gパックのマヨネーズでカロリーをブーストできる。
茹で汁 コーンスープ 80kcal パスタの茹で汁は油汚れを落とすのに便利。掃除用に少し残して、残りはスープの素を溶かして飲んじゃう。
魚肉ソーセージ 100kcal タンパク質万歳。重いがコンビニに寄ったついでについつい買ってしまう。上の二つじゃタンパク質が足りないので、こういった小物で補うべき。

500~700kcal程度しかないので、長期や冬のメニューには向かない。

2009年12月8日火曜日

ビバーク考(番外):オールウェザーブランケットの使い方(ビバークで凍えないためのetc)

オールウェザーブランケットの使い方

all-weather 003 オールウェザーブランケット、もしくはエマージェンシーブランケットは、使い方を正しく理解しなければならない。非常時に効果的に使うためにはどうすればよいか記述する。

右は、愛用のオールウェザーブランケット。使いきりのエマージェンシーブランケットと異なり、繰り返し使用できるが嵩張るのが欠点。

基本的な使い方

服を着れるだけ着る。お尻の下にザックの中身を敷き、座る。空にしたザックは、足を突っ込む。どこかにもたれかかるなら空にしたザックは背負って、背中の断熱に使ってもいい。最後に銀面を自分の側にむけたオールウェザーブランケットにしっかり包まる。

最高の結果を得るためのポイントは以下の通り。

  • 地面に対しての断熱を最優先に考える。地面に直接座ってはならないし、寝そべるなどは論外。
  • オールウェザーブランケットの銀面は自分側にして使う。

どの程度の効果があるのか?

うたい文句を信じるならば、オールウェザーブランケットは熱放射を80%以上反射させる効果がある。体からの損失熱の80%ではない点に注意すること。(Engineered to reflect and retain over 80% of radiated body heat,...原文の単語に注意!entire body heatではない)

簡単に言えば、体から失われる熱は以下の3つの要素の総和となる。

損失熱=熱放射+熱伝導+熱伝達(対流)

要するにオールウェザーブランケットでは、熱伝導や熱伝達により失われる熱はほとんど防げない。

オールウェザーブランケットを効果的に使うには、熱伝導および熱伝達の要素を最小にすればよい。地面に触れない(熱伝導阻止)、しっかり着こみ風に当たらない(熱伝達阻止)の2点を徹底すること。

オールウェザーブランケットやエマージェンシーブランケットに対して効果を疑問視する人もいる。以下に、オールウェザーブランケットが具体的にどの程度の効果をもつか概算した結果を占めす。

人体モデル

身長172 cm、体重 63kg (およそ標準体型の日本人男性平均値)。体表面積sは s = 0.007184 × 体重^{0.425} × 身長^{0.725}より、1.745196m^2とする。

環境

仮に全裸だったとして体表面の平均体温を34度とし、人体放射率を0.98する。また環境温度は24℃とし放射率0.95と仮定する。

放射熱

シュテファン=ボルツマンの法則から、放射される熱量P=放射率×表面積×シュテファン=ボルツマン定数×絶対温度^4となるため、人体から放射される熱量Pは、0.98×1.745196×5.67E-08×(34+273.15)^4=863.09J/sとなる。同様に環境から放射される熱量P'は0.95×1.745196×5.67E-08×(24+273.15)^4=732.91J/sとなる。

反射は値として小さいのでここでは無視する。P-P'より、概ね130.17J/sの体温が逃げる計算になる。もし生産熱と損失熱が平衡しているならば、1時間当たり112.0kcal/hのカロリーを失っている計算になる。人体比熱はおおよそ0.83であるから、体重63kgのこの人物の体温は、放射熱で約2.14℃/hの勢いで冷めていく計算になる。(生産熱はこれに逆らって体温を維持する)

オールウェザーブランケットの導入

周囲環境にオールウェザーブランケットを導入する。環境温度24℃で放射率0.2、反射率0.8と仮定する。

環境の放射率0.2について同様に計算すると放射熱P''=154.30J/s、さらに今度は反射を無視できないので、人体からの放射熱Pを反射した熱量RはR=人体放射熱量P×反射率= 863.09 × 0.8 = 690.4J/s。よってオールウェザーブランケットからの総放射熱量Prは放射熱P''と反射熱Rの総和になる。したがってPr=844.7J/sとなる。

熱放射により逃げる体温は、P-Prより21.40J/sとなる。つまり18.4kcal/h程度の損失といえる。体温低下に換算すると0.35℃/h程度になる。

まとめ

オールウェザーブランケット有り/無しで見ると、このケースでは一時間当たり93.6kcal/h程の差となる。これは、熱伝達、熱伝導の値が十分に小さければ無視できない量の保温効果だといえる。

逆にいえば、熱伝達や熱伝導による損失が大きい場合はオールウェザーブランケットの効果は相対的に小さくなる。そして、フィールドでは多くの場合、熱伝導や熱伝達による損失の方が大きい。そのため、オールウェザーブランケットやエマージェンシーブランケットは漫然と利用しても効果を感じにくい装備となっている。

ビバークで凍えないためには・・・

OK。ここからは数式のことなんか忘れよう。大事なのは、山で実際に何をすべきか忘れない事だから。下の3つの失わない努力を常に心がけること。

熱伝導によって体温を失わない努力

地面に直接寝てみよう。imageこの場合、あっという間に地面に熱を奪われて凍える。(熱伝導による熱損失)

地面に直接寝るのはダメ。寝るなら断熱用のマットを引いて寝る。これが鉄則。

image 「フォーストビバークでマットなんか持ってない!」そういう時も地面に対して常に断熱を意識する。たとえば寝ずに座る。接地面積を減らせば熱伝導で奪われる熱量は激減する。

imageこの場合もお尻の下に、着れない荷物は全部敷いて地面に対して断熱。何かにもたれるときはザックを背中に当てて断熱するといい。他にも、枯れ葉や小枝を集めて断熱マットもどきにできる。(夏場は虫にたかられる覚悟がいる・・・)

熱伝達(対流)によって体温を失わない努力

冷たい空気に触れると、空気が暖まりこんな感じに対流する。

imageこの場合、体温は空気に奪われてしまう。空気の流速が早いほど体温を急速に奪われる(対流による熱損失)

この場合、風に当たらないようにし、着られるだけ着る。

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着こむときは、露出部分を可能な限り減らすこと。顔面、首、手を露出させない。また肩は体温を逃がしやすい。タオルなどでここをしっかり覆う。ここのサイト中段の図16に注目。衣服の肩の部分の温度が高いことがわかる。衣服が肌にしっかりあたる部分は熱が服に伝わりやすいため、熱を逃がしてしまう。タオルなど掛けて熱を逃がしにくくする工夫をすること。

なお、どこにももたれないときは、空にしたザックに足を突っ込んでおけば、足元はかなり暖かい。

熱放射によって体温を失わない努力

たとえ真空中に放り出されたとしても・・・・

image 体温は電磁波(輻射熱)となって逃げていく。(熱放射による熱損失)

この場合、アルミシートなど電磁波を反射する素材で囲う。

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反射した電磁波が自分に戻ってくるように工夫すること。(ぐるり体を包むなど)

オールウェザーブランケットは地面に敷くとただのレジャーシートと変らない点に注意。熱を反射するわけではなく電磁波を反射するだけなので、反射した電磁波が自分に戻ってくるように配置しなければ無意味となる。

imageテントウォールを暖めても多少は効果があるかもしれないが、明らかに非効率なので、この場合は敷くより包まるべき。

最後に

ここまで見てきたようにオールウェザーブランケットが十分な効果を発揮するのは、3つの熱損失の要素の内、放射熱による損失だけだ。ビバークで凍えないためには、熱伝導、熱伝達、熱放射、すべてに隙がない対策が重要になる。

最後におまけとして。「オールウェザーブランケットの使い方」というからには、保温以外の使い方も挙げておこう。

日よけ(タープ)

銀面を熱源(太陽やたき火)に向けて裏側に回り込むと涼しい (熱源からの輻射熱をアルミが反射するため)。 グロメットを利用してタープ代わりに使うときは銀面を空に向けて張った方が涼しい。

日向で、「銀面を上にして包まったとき」と「銀面を下にして包まったとき」の温度の違いを実験してみると違いがわかる。

グランドシート

かなり丈夫なのでグランドシート代わりに使える。この場合は電磁波を反射する効果はないので、保温には全く使えない。(時々勘違いしている人がいるが、ただ地面との間に敷くだけで熱を反射するなんてことは、ありえないのでだまされないように)

雪洞掘りに

雪を掘りだして運ぶ時のソリ代わりに。

緊急時の合図に

ヘリに合図する場合に、目立つ銀面が使える・・・ハズ。ヘリに救助を求めるときは、体の上で銀面が目立つよう大きく円を描いて回す。ヘリから気付いて救助に向かってきたら、体の横で上下に振ればOK。